本から明日をつくる

《経済学の大学院を修了しベンチャー企業で働く管理人》が、“ビジネス”と”人生”を深くする教養をお届けします。【様々なジャンルの本から学べる明日に活かせる知識・視点】と【日本と世界のあまり知られていない世界の魅力】を発信しています。

【書評】アイデアの神様はどうすれば味方をしてくれるのか~森本毅 『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』

今回紹介するのは、森本毅『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川文庫)です。

 

f:id:honkaraasuwotukuru:20190421003156j:plain

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

 

今や日本を代表するテーマパークのユニバーサルスタジオジャパンUSJ)ですが、一時期来場者数が減って窮地に陥ったことを知っていましたか?

そこからV字回復を成功させた裏には、どんな戦略があったのか?

 

V字回復のためのマーケティングを担うべくUSJに入社した著者森岡氏が、自身の体験をマーケティングの考え方に重ねながら書き上げた本になります。

ぜひ全てのビジネスマンに読んでほしい一冊です。

 

 

要約

  • 何を考えるべきか明確にすることでアイデアの神様が舞い降りる確率は上昇する
  • 既存のものから使えるアイデアはないか消費者の視点から観察を繰り返す
  • 最後は目的に到達するために考え抜いたかどうかにつきる

 

 

USJ奇跡のV字回復

ハリーポッタージュラシックパークミニオンズにワンピース。

世界に名を轟かせる一級の作品と出会えるテーマパーク、USJ

 

しかし2010年まで遡ると、USJは年々来場者が減り続ける危機的状況にありました。

 

その状況を打開すべくやってきたのが筆者森岡氏。

 

森岡氏は当時のUSJが抱えていた問題を次々に明らかにしていき、次々と施策を打ち出していきます。

消費者視点でパーク内を徹底的に観察し、様々なデータ・数字と向き合い続けました。

 

そうすることで、リアルな世界観を体感できるモンスターハンターの展示、それまで弱いとされていたファミリー層を取り込むためのユニバーサル・ワンダーランド、そしてタイトルにもある後ろ向きに走るジェットコースターのハリウッド・ザ・ドリーム・ライド~バックドロップといったアイデアを次々に打ち出していくのでした。

 

彼のすごいところは、危機的状況の限られた予算という厳しい制約条件の中で、既存の資源をフルに活用しながら最善に近い施策を打ち続けたことだと思います。

 

なんとしても2014年にオープンさせると決めたThe Wizarding World of Harry Potter(年間売上の半分以上の450憶円を投資するという常識を覆すプランだったよう)までつなげるために常に崖っぷちの状況で 最良のアイデアを実現させていかなければならなかったのです。

 

では彼はどうやってその「アイデアの神様」を常に味方にし続けることができたのでしょう?

 

 

神様の正体、それは確率

f:id:honkaraasuwotukuru:20180625205927j:plain

 

神様の正体、それはずばり確率でした。

この本の肝は、いかに最良に近いアイデアを打ち出す確率を上げていくか、それこそが「アイデアの神様」を呼び寄せる可能性を高めていく、ということだったのです。

 

確率を上げるために必要なことは、「何を必死に考えればいいか分かっていること」に尽きると彼は言います。

 

それはすなわち、

いいアイデアとはどんな条件を満たすアイデアのことか?

②それらの条件を組み合わせて、良いアイデアを探すにあたっての着眼点(釣るポイント)をどこに定めて頭脳をフル回転させるべきなのか?

の答えを導き出すことでそうです。

 

 

このアイデアが満たすべき必要条件が明確になるためには、次の3つのフレームワークが有効だと説明されます。

 

戦略的フレームワークとは、目的という一番大きなところを設定し、そこから戦略(必要条件:目的達成のために経営資源を何に絞るか)、そして戦術(アイデア)と行動段階の小さなところまで落とし込んでいく方法です。

 

数学的フレームワークとは、要素を分解したときに足して必ず100(全体の母体数)になるようにする思考方法です。

例えばあるアトラクションが引き寄せているのは男性か女性かといったかんじです(男性と女性を足したらすべての人間が包括されますよね)。

もしここでいきなりそのアトラクションは女性のうちどの年齢層が好んでいるのだろうか、と考えると男性の顧客層という可能性がごっそり落ちてしまう、というかんじです。

 

マーケティングフレームワークについては長くなるため割愛されていました。

 

 

最後はどれだけ考え抜くことができたかどうか

日本人はアイデアを0から生み出そうとしがちだ、とも書かれていました。

既存の何かからアイデアを得られないか探すこと、すでにあるものを新しく取り入れていくことがアイデアのストックにもつながり、有効な施策につながるのです。

 

たしかにその通りで、アイデアのヒントは日常にあふれていると思います。

大事なことは、論点・仮説をもって日常の様々なところに気を配ること、それがアイデアが蓄積されていく一番の近道なんだろうな、とこの本を読んで思いました。

 

そして結局のところ一番大切なのはそういって考えるべきことを定めたうえで、どれだけ考え抜くことができたか、ということに尽きるということです。

筆者はモンスターハンター(ざっくり言うとモンスターと戦うゲーム)の企画をすることになったとき、プレイ時間が300時間をこすほどやりこんだそうです。

そうすることで消費者目線も分かるし、日常で徹底的に考え抜くことでできたと。

 

そこまでやって初めて有益なアイデアの神様は舞い降りてくるんだなあと勉強になりました。

日頃から何を考えるべきか癖をつけたうえで、必死に考えをこらしていく、それがアイデアの神様が味方をしてくれる唯一の方法なのではないでしょうか。