本から明日をつくる

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【書評】衝撃、増え続ける子どもの貧困~保坂渉・池谷孝司『子どもの貧困連鎖』~

本の紹介

今回紹介するのは、保坂渉・池谷孝司『子どもの貧困連鎖』(新潮文庫)です。

 

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これは共同通信社の記者である著者の2名が、実際におこなったインタビューを通して書き上げたノンフィクションです。

内容はタイトルからわかる通り、現代日本社会における子どもの貧困についてで、高校生、中学生、小学生、保育園児の4つの時期に分かれた4章構成となっています。

 

このルポが書かれたとき(2011~12年)日本では、親の経済力の格差のために、子どもの6人に1人が貧困状態にありました。

両親に経済力が無いということが、子どもに継承されて、貧困の連鎖となっているわです。

 

ちなみに、以前読んだ本で世代をこえる格差は歴史的に見て大きな変化は逆にないと統計的に検証している本がありました。

h¥onkaraasuwotukuru.hatenablog.com

 このこととは異なる現代社会の問題が起こっているような気がしてなりません...

 

インタビューを通して実際この本に記されている子でどもたちは、公衆トイレで寝泊まりする女子高生であったり、生活へのストレスから母親から虐待を受けた中学生であったり、車上生活する保育園児であったりと目を疑うようなものばかりです。

 

しかしそのような子どもに対してなんとか状況を変えようと努力する学校関係者などの大人もこの本には登場します。

家庭に何度も何度も訪問したり、保健室にやってくる貧しい子どもに朝ご飯を与えつつ家庭の様子を聞き出してその親に接触したりと、教育にたずさわる姿勢のあるべき姿というものも書かれていました。

 

そして各章の最後には、専門家へのインタビュー記録も書かれていて、そこでは現在教育における子どもの貧困問題に対してどのような取り組みがなされているのか、また必要なのか、ということを学ぶことができるようになっています。

 

 

感想・書評

この本を読んで思ったことは大きく3つです。

 

表面的に見えにくい子どもの貧困

まず一つ目は、何度もこの本を通して出てきた言葉、「子供の貧困は表面的には見えにくい」ということです。

そこそこの身なりならすぐに整えることができる、スマートフォンだってもっている、何不自由ない人をとりつろうことは案外簡単にできてしまいます。

しかし実は家の中では明日食べていくお金もない。

 

一昔前は地域の結びつきというものが強く、家と家との境界というものは今より精神的に希薄なもので、困ったときはお互い様、食べ物もあげたり、といった精神文化があったように思えます(その時代生きていたわけではないけれど)。

 

しかし今はそういったものはだいぶ薄れ(とくに都市において)、貧困というものになかなか気づけません。

僕たちが思っている以上に、すぐ隣近所でも生活に苦しんでいる人たちがいるのかもしれません。

 

※上でこの本が書かれたとき子どもの貧困は6人に1人と書きましたが、今月(4/9発売)の東洋経済によると子供の貧困は7人に1人になってはいるそうです。

 

有益な識者インタビュー

二つ目は、各章の終わりについている識者インタビューが大変参考になるものであったということです。

欧米の社会の給付制度や教育制度との違いや、現状の政策の問題点においてよくわかりました。

 

今の日本の大きな問題は、教育に対して政府からお金が落とされないこと

財源がないという理由で大きな変革がうまれません。

最後に大きなつけがまわってしまうのは子どもたちです、これは大人達の、日本社会の大きな恥となるでしょう。

 

貧困問題の拡大

そして三つ目は、これからこの子ども貧困問題は更に広がっていくであろうということです。 

 

貧困問題が大きな問題になったのはリーマンショックのあった二〇〇八年でしたが、あれは大人の貧困問題でした。子どもの貧困問題が来るのはタイムラグがあって十年後か二十年後に本番が来ると思います。つまり、いま貧困状態にある若者たちが家族を形成して、その子どもたちが学校に上がってくるのが十年後です。子どもの貧困問題が深刻化することは間違いありません。

(本書149頁より)

この引用からも分かるようにこれから日本に訪れる格差問題は更にひどくなるのかもしれません。

大事なのはどうやって対処していくか、それを今の段階から一人ひとりが考えていく必要があると思います。

 

今自分にできることはなんなのだろう。

 

この本のあとがきに書かれていたように「お節介」がもっと大事になるのかもしれない。

もっと他人に干渉していかないといけないのかもしれない。

でも正直そのちゃんとした答えは僕にははっきりと分かりません。

 

ただ、まずは知ること、そこから始めないといけないことはたしかだと思います。

そういう意味でこの本に出合えたことは本当に良かったです。