本から明日をつくる

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【書評】起業してそれを売って儲けるってそんなに簡単?~正田圭『サクッと起業してサクッと売却する』

本の内容 

今回紹介するのは、正田圭『サクッと起業してサクッと売却する』(CCCメディアハウス)です。

 

15歳の時に起業をし、19歳のときにその企業を売り、それ以降連続的に企業をすることを生業とする著者は、この本を通して一貫して

  • 起業に崇高な理念はいらない(後からついてくる)
  • 会社を売却すれば多大な金が手に入る
  • その金によって人生の選択肢は無限に増えていく
  • 連続的企業によって「時間」と「金」を手にできる

ということを主張しています。

 

起業はハードルが高いと思われているようだけれど、現代ははるかに起業しやすくなってきていると筆者は述べます。

アイディアがないと起業できない、崇高な理念がないと起業できない、と考えているからなかなか行動に移せないのであって、いきなり最初からそんなことできるわけないのだからまずやってみてそれから考えていくほうがいい、と主張されます。

 

ではなぜ筆者はそんなにも起業を、そしてその後に売却することを勧めるのでしょうか。

それは企業と売却によって「金」「時間」を両方てにすることができるからです。

企業で働く、ということは誰かがつくったシステムのうえでまわるということだから一定以上のお金は手に入りません。

しかし、自分でうみだしたシステム=起業ならば利益をあげればそのぶんだけ自分自身が儲けることができます。

自分で育てた企業を売ることによって、今後利益をあげるであろう予定であった数億という単位のお金がうまくいけば手に入ります。そして企業を売ることによって自分は自由になるので旅に出るなど今後の人生を考えるために立ち止まる時間をつくることができる、ということです。

 

つまり、起業と売却によって手に入る「金」と「時間」によって、自分が人生において本当にやりたいことを探すことができ、それを行動に移していくことができるようになる、という話です。

 

 

そして、本書の後半では企業と売却を実践していくにあたって気を付けるべきことを述べていきます。

例えば、売却を想定したうえで起業するならば、事業計画は必ず言語化するべきだ、とか、仕事を断ることも大事であるといったようなコミュニケーション戦略についてです。

具体的にどうこうしろ、というよりはこういうことに気を付けようといったようなざっくりとしたことです。

 

このように、筆者は起業して売却することが人生にもたらす豊かさについて述べている本でした。

 

 

感想・書評

ぼくは起業したことがないからこの本に書かれていることがどれだけ現実的な事なのか判断することはできません。

それこそ、行動した人のみぞ知る、ということだろうし、その点に関して行動しないと何も分からないと本書で書かれていることは的を得ています。

 

この本のざっくりとした書評としては、前半は起業と売却がもたらす本当のメリットについて述べらているのであって、それはとても合理的なことではある、ということです。ただ後半の実践編は、これを読めばさあ起業できるぞ、というほどのものではなく、あくまで心構え程度のものかな、という印象です。

ただ、こういう生き方もある、起業にはこんな意味がある、ということを知るうえではこの本はおもしろい。

 

この筆者は「サクッと起業してサクッと売却する技術は、早めに人生を勝ち抜けて、残りの人生を保守的に生きるためのものではなく、今後の人生を、より大きくリスクをとって挑戦していく人のためのスキルである」と言っていて、それはまさにその通りであると感心しました。

そしてそのうえで、サクッとそれをやってのけることはエキサイティングではあるが、決して楽な事ではないと述べています。

つまり今回のブログの記事のタイトルである簡単かどうか、ということに対する答えは「No」であると言えるでしょう。

本当に楽しいことは楽な事ではなく、エキサイティングなことだ、というのは僕の意見とも完全に一致します。もがきながら挑戦し続けるからこそ見える景色はあるはずです。

 

それでも起業して売却していくメリットについて説明していてああなるほどなぁと思うことも多々ありました。

 

この著者は15歳の時に起業して19歳の時点で会社を売却して1億円かせぎ、それからも会社を作っては売ってという経験をもとにこの本を書いています。

そして、高校生以上ならば稼ぐことができる、若いうちからさっさと起業すればよいのだ、とも書かれていました。

 

それに対しては、僕は大学まで行くべきだと思っている、ということです。

もちろん学校に通いながら起業するなんて素敵な事です、どんどんやればよいと思います。

 

ただ、大学で学べることは大学でしか学べません。

智が蓄積された学びの場とビジネスは違います。

(ビジネスをちゃんと経験したことのない僕が言いうのも説得力はないですけど…)

学問を追求すということは「人」としての生きる在り方を豊かにしてくれるものだと僕は思っています。経営学といった実践的な学問に限らず、歴史学や人文学、宇宙科学や物理学などあらゆること(=リベラルアーツ)を学ぶことは、自らの知見と 視野を広げてくれるもになるでしょう。

今の社会はありとあらゆる分野の要素が複雑に絡み合って成り立っているのだから、様々なことに精通してこそ物事の本質を見抜くことができるようになっていくはずです。

経営者になるならば物事の本質を見抜くためにも様々な事を学ぶべきだと思います(学ぶことはいつからでもできますが、社会に出る前は先入観が少ないのでより多くのことを純粋に吸収できると思います)。

 

また、経営者を目指すなら大学に行くべきだと考える理由はもう一つあります。

それは大学に行ってちゃんといろんな世界を見れば企業の領域の幅が広がるのではないかということです。

産学連携の流れが強まっていて、大学発だからこそできるベンチャー企業というものが特に理系を中心に存在しています。例えばドローンを使ったサービスだとか、宇宙への人工衛星打ち上げだとか、バイオテクノロジーを使った医療や食品開発だとか、あげていったらきりがありません。

しかし、若いうちに起業するとなると、事業内容は色々あるように見えてもだいたいはIT・ファイナンス関連にとどまらざるをえません。一度その領域で企業を続けたら完全に違う理系だとかそういうビジネスって視野から消えちゃうんじゃないかなって気もします。

だから企業の視野を広げるためにも大学に行く意味は大きいんじゃないかなって思っています。

 

という僕の考えをつらつらと書いてしまったのですが、この本における起業は自分とその周りを豊かにするためって考えてもいいじゃないか、という話だったので、お金を稼ぐことを目的としているからそういったいろんな視野とかはあまり重要視されているところではないのでしょう。

そもそも企業というのは本書でも言われている通りあくまで手段であって、それをもとに何を成し遂げたいかが重要で、それは人それぞれいろいろな在り方があるべきだと思うので、この本は一つの参考として楽しく読ませてもらいました。