本から明日をつくる

本と旅が趣味の経済史を学んでる大学院生です。経済、歴史、社会問題からエッセイ、小説まで色んな本読みます!旅の話やその時学んだこととかも色々書いてきます!

【書評】ノーベル経済学者の心に響く講演、本当の発展とは~アマルティア・セン『貧困の克服ーアジア発展の鍵は何か』

本の紹介

今回紹介するのはアマルティア・セン著の『貧困の克服ーアジア発展の鍵は何か』(集英社新書)です。

 

 

本書はアジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの講演をまとめたものです。

哲学者でもある彼が考え出した「人間の安全保障」「エンタイトルメント」「ケイパビリティ」という概念を用いながら、これからのアジアが発展していくためには何が必要であるのかということが語られています。

 

専門的な論文ではなく講演をまとめたものであるので、経済を専門に勉強していない人にとっても比較的わかりやすいというのが本書の特徴でもあります。

 

そして、本書に記載された4つにわたる講演を通してアジアにおける経済発展の根幹にあったものは教育等のエンタイトルメントであって、人間的発展こそが重要であるということが述べられます。

 

アジアのこれからの発展のためにも、人が人らしく生きることができるための「人間の安全保障」こそが真に求められるのであり、西欧とはまた異なった「アジア的価値観」をもう一度見直すべきであるということが、わかりやすい具体例や論理を用いながら説明されている本でありました。

 

書評・感想

この本を読んでまず考えさせられたことは、

「本当の発展とは何なんだろう」

ということでした。

 

近年、社会で注目されるのはGDPがどれだけ上昇したか、デフレ脱却のための政策はうまくいっているのか、といったような文字通りの経済発展です。貧困もそういった経済発展のなかにおいて脱却していくべきものとして語られます。

 

しかし、ざっくり言うとこの本における大事なことは人間としてあるべき権利を全うできること。この本を読んでいて感動した部分であると同時に、日々いかにお金というものがあらゆるものの指標になっているかということに気づかされました。

 

西欧の産業革命を期にはじまった近代以降の資本主義というものは、人間として生きていくうえで本当に大事なものを隠してしまうのだなぁ、と。

 

 

センが本当にすごいのは、はるか昔からアジアで大切にされてきた価値観(本書ではインドのアショーカ王の例などの言及していました)を再構築した彼の哲学を経済という分野にとりこんだことなんじゃないかなと思います。

 

世界にまだ残る貧困といった経済的に目に見える問題。現在の日本においても、貧困はほぼなくても経済的不平等は大きな問題です。

給食費をまともに払うことができない家庭も年々増えていると言いますし、富裕層との生活の水準の差は開くばかりです。

 

そんな問題に直面している我々に必要なのは、政府からの補助金を与える、といったその場の生活をしのぐためのものなのでしょうか。もちろんそれが大切であることは否定しません。

しかしそれ以上に、教育をはじめとした人間として発展していくことこそ大事なのではないでしょうか。

 

これはとても難しい問題で、ではそれをどうやっていくのか、それを世界中の一人ひとりが考えていかなければこの先に本当の発展は訪れない、そんなメッセージがこの本にはあるように感じました。

 

本当の発展ってなんだろうか。

 

忙しく様々なことに追われる日々の中で、ふと立ち止まって人間としての在るべき形について考えさせてくれる、そんな一冊でした。