【書評】人口世界第4位の国はまだまだ発展し続ける~佐藤百合『経済大国インドネシア 21世紀の成長条件』~
今回紹介するのは佐藤百合『経済大国インドネシア』(中公新書)です。
この本は2011年に出版されたもので、現代のインドネシアについて書き記したものとなります。
インドネシアといえば?
インドネシアと聞いて何を思い浮かべますか?
人によって色々だとは思いますが、案外どういう国か思いつく人も少ないのではないでしょうか。
この本は、そんな人のためにインドネシアという国を理解するのにもってこいだと言えるでしょう。
では、この本の内容に言及していきましょう。
要約
- 世界第4位の人口(約2億4000万人)と豊富な資源を背景とした経済成長のポテンシャルが存在する。
- 2004年の民主化によって政治体制が安定したことで10年、20年先の「安定と成長」が見込まれるようになった。
- 経済開発戦略の要となる「フルセット主義」
人口という経済発展の武器
2憶4000万人という人口が経済発展の大きな一因となることが予想されるのですが、そこには人口ボーナスという概念が存在します。
人口ボーナスについては以前の記事で詳しく説明しているのでよかったら読んでみてください。
↓ ↓ ↓honkaraasuwotukuru.hatenablog.com
ざっくり言うと人口ボーナスというのは、出生率が下がりだすと、出生率がまだ高かったときに生まれた世代はばりばり働ける年齢になって、なおかつその働ける人口が全人口の中で相対的に割合が増える(その人たちより若い子ども世代の数が少なくなっているため)ことで経済成長につながる、というものです。
インドネシアはちょうど出生率も下がりだして、働き盛りの労働力人口の割合もこれから増えるということで、人口ボーナスの恩恵を享受できるという見立てのようです。
しかし、上にのせた『老いていくアジア』に詳しく書いてありますが、人口ボーナスというのは一時のドーピングのようなもので、出生率が下がった世代の子どもが大人になっていくと人口ボーナスは享受できず、高齢社会が訪れてしまいます。
とはいえ、まずはしっかり人口ボーナスを享受するために、本書にも書かれているように教育制度や労働法を整備してくことが求められるでしょう。
その上で必要なのが安定した政治体制でした。
民主主義への大転換
そもそも、1966年から1998年までの32年間、スハルトという大統領が政権を握り続けていました。
スハルト大統領のもとでは貧しい国家を脱却するために「開発」を掲げ、自らのもとに権力を集中させて強力な手腕でインドネシアを発展させたのです。
しかし、その権威主義体制の裏では国民の政治参加は厳しく制限されます。
本書にも書かれていましたが、開発と民主主義というのは必ずしも合致するものではないのでしょう。
そのスハルトが1998年に退任してから、三権分立や地方自治といった政治概念が導入され、ユドヨノ大統領のもとで民主化が進められていったのでした。
一定の水準まで開発が進んでしまえば、そこからの発展に民主主義の存在は欠かせないものとなるのです。
経済大国への道のり
この写真は首都ジャカルタの光景です。
高層ビルがだいぶ立ち並び経済発展の様子がうかがえます。
インドネシアの成長戦略として「フルセット主義」と筆者が表現したプランがあるようです。
インドネシアはもともとオランダの植民地でサトウキビなどの強制栽培が戦前おこなわれていましたが、戦後も資源や一次産品の輸出に国益を生み出すすべがない「オランダ病」が問題視されてきました。
つまり、工業化の経験が浅い国なのです。
資源はないが工業化で発展してきた日本と対極にあります。
この「フルセット主義」では工業化を進めつつ、他にも従来の農業や工業、サービス業において一次産品から加工品へと付加価値を創出していく、各部門での生産性向上を計画しているようです。
ポテンシャルとしてはかなりのものを秘めているインドネシア。
これからの成長に期待が高まります。
きっと日本の企業の進出もどんどん進んでいくことになるのでしょうね。