【書評】今アジアで起こっていることを学びたいならこの一冊を~遠藤環・伊藤亜聖・大泉啓一郎・後藤健太編『現代アジア経済論』
今回紹介するのは、遠藤環・伊藤亜聖・大泉啓一郎・後藤健太編『現代アジア経済論ーアジアの世紀を学ぶ』です。
この本は大学の講義で使われる教科書となることを念頭に置いて書かれた本です。
現代のアジアで何が起こっているのか、学問の世界ではどのようにとらえられているのか、初心者でもわかりやすく、かつ正確に記述されているのがこの本であると言えましょう。
要約
- 東アジアと東南アジアに共通して起こっていることに注目したアジア経済の教科書
- これまでにない画期的な章立て構成
変化していくアジア
最初にことわっておくと、この本においてさす”アジア”という地域は、東アジアと東南アジアを指しています。
インドなどの南アジアやイランなどの西アジアまでを入れてしまうと、共通しておこっていることがよくわからなくなってしまうため、今回は省いたそうです。
インド研究者からはインドはアジアじゃないだと~?という声が聞こえてきそうですが、一回そこは置いておきましょう。
さて、いまアジアで起こっていること、と言われて皆さんは連想するものがありますか?
ひょっとすると今頭に思い浮かんだことは、一昔前のことになっているかもしれません。
「アジアと言えば発展途上国だし貧しそう」
そう思ったとしたら、もう大間違いです。
アジアは都市化が進み、首都なんてもう東京とさほどかわりません!
以前インドネシアの首都ジャカルタについて紹介した記事を書いているのでそちらの写真などを見ていただければよく分かるのではないかと思います。
honkaraasuwotukuru.hatenablog.com
ではもう貧困問題は脱したのかと言われると答えはyesでありnoでもあります。
アジアはここ数十年の間に急速な経済発展をとげ、1日に200円しか使えないような貧しい人はだいぶいなくなりました。
しかし、今度は格差問題が問題になってきているのです。
貧しくてご飯も食べれないという人はかなり減ったけど、多くのぎりぎりの生活にしかとどまれない人と、たくさんのお金をもらえる人に分かれたわけです。
いまの日本と似ていますね。
この不平等化しているアジアは今アジアに起こっていることのほんの一例です。
この本を読めば、今何が起こっているのか、ということの大部分を理解することができるでしょう。
教科書として画期的な構成
最後に、この教科書がこれまでの他の教科書と異なりなぜ画期的であるかを説明したいと思います。
結論から言うと、いまアジアで起こっていることという視点で章立てがなされているのです。
これまでの教科書の章立て構成は、基本的に2章中国、3章韓国、4章ベトナム、5章タイ...といったかんじで、国ごとに分かれた章立てとなっていたんですね。
ある地域に特化した研究者が多く、全体を包括した研究者が少なかったということも要因の一つでしょう。
ただ、この何が問題たったのかと言うと、中国の章でも、韓国の章でも、ベトナムの章でも、タイの章でも、どの地域でも同じ問題が書かれていたのです。
どの章でも高齢化や格差問題、グローバル・バリューチェーン、といったようなキーワードが飛び交っていました。
それに対してこの本はそういった今アジアに共通しておこっていることを捉えようという試みで書かれています。
そのため章立ての構成は、生産するアジア、都市化するアジア、高齢化するアジア、不平等化するアジア、といった章からなりたっています。
そのような点からも、地域特有なものでなく、アジア全体において起こっていることを捉える上で大変有益な本となっています。
アジアの経済を学んでみたいという方、学生でも社会人でもおすすめの一冊です。