本から明日をつくる

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【書評】グローバリゼーションを読み解くヒントは”移動のコスト”~リチャード・ボールドウィン『世界経済大いなる収斂』①

今回紹介するのは、リチャード・ボールドウィン『世界経済大いなる収斂』(日本か経済新聞出版社)です。

 

 

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この本は、移動にかかるコストという視から世界経済を読み解くことによって、今起こっているグローバリゼーションを明らかにしていこうとしています。

その理論はいまの世界経済を考える上で、とても重要な視点となることでしょう。

 

これはは300ページをこえる専門書なので、二回に分けて考えていきたいと思います。

今回は第一部と第二分に関して紹介していきましょう。

 

 

要約

  • 移動にはコストがかかり、種類は、モノ、アイデア(情報)、ヒトの3つある。
  • 産業革命によりモノの移動のコストが大きく下がり、グローバリゼーションがはじまっていく。
  • IT革命による情報の移動のコスト低下により、製造業はグローバル規模で生産過程が分かれるようになった。

 

グローバリゼーションの歴史

はるか昔、人類が文字を持つよりもさらに前の時代、人類は世界中に広がりました。

最初は狩りによって食べ物を獲得して生きていた人類は、やがて農業という画期的な方法を編み出し、明日食べ物が手に入るか分からないという状況を脱するようになります。

 

つまり農業による生命の安全の確保から、人は移動する必要性があまりなくなり、その地に定住するようになるのでした。

何かを移動するにはコストが生まれるのです。

 

今では当たり前ですが、農業の発見ってめちゃくちゃ偉大な事だったんです。

 

 

ではその移動のコストには何があるかというと、

  1. モノの移動コスト
  2. イデア(情報)の移動コスト
  3. ヒトの移動コスト

があると作者は主張します。

 

そしてこうした移動のコストが下がることで、グローバリゼーションの在り方も大きく変化してきました。

 

 

モノの移動コストが下がった産業革命

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産業革命、といわれると機械によってものがつくられるようになった発端だ、と覚えている人もいるでしょう。

 

しかし、それと同じくらい大切なのが、蒸気船の発明です。

蒸気機関が発明されたことで生み出された蒸気船は、それまでと比べてたくさんのモノをより低価格で運搬することを可能にしました。

 

時代としては、1820年頃からのことです。

 

この輸送コストの急低下、すなわち、モノの移動が大きく下がったことで消費地の近くでモノを作る必要性がなくなりました。

 

その結果として、産業は豊かな国(一部のヨーロッパやアメリカなど)に集中し、豊かでない国は、下手すれば植民地となり、原材料を輸出する国となり経済成長は阻害されたわけです。

 

 

こうして世界中の国で大いなる分岐が起こり、歴史に類を見ない所得の不均衡が生じたのが、この移動コストの低下により引き起こされたグローバリゼーションだった、とこの本は主張します。

 

このことは間違いないと思って、かつての帝国主義というのは、まさにテクノロジー(=蒸気機関)を手にした豊かな国による、目に見える横暴であったと言えるでしょう。

 

ちなみに、この大いなる分岐という言葉はポメランツという人の大分岐という本を意識していると思います。

その本の主張はざっくり言えば、産業革命で豊かな国に産業が集中するまでは、実は世界中見ても経済発展の度合いはどこも変わらない、というものです。

 

 

 

情報の移動コストが大きく下がったことで変わった貿易

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再びグローバリゼーションに大きな転機がおとずれるのは1990年頃のことでした。

 

そう、IT革命によって、通信コスト、すなわちイデア(情報)移動のコストが大きく下がったのです。

 

このことによって、これまで豊かな国が独占していた産業のノウハウなどの情報が一気に発展途上国に流れ込むことになりました。

 

ましてや発展途上国の労働賃金は先進国と比べて安いですから、製造業は発展途上国で担われていくことになるのです。

 

かつてユニクロが中国で洋服を作り、いまはさらに労働賃金が安いバングラディッシュで作っている事例を考えれば理解もたやすいでしょう。

 

 

この情報の移動コストの低下に伴い、調整コストも低下することになり、21世紀型貿易は生産工程を国際間で分けるようになりました

 

アイフォンをとって考えてみれば、部品は中国などでつくり組み立てますが、

製造後のサービスの付与などはアメリカのアップル社でおこないます。

最初の設計もアメリカでおこないますね。

 

つまり、最初の設計や最後のサービスにより高い価値がつくようになり、途中の製造・組み立ては発展途上国でもできるから価値は相対的に低いものとみなされます。

 

製造業において、グローバル経済で今勝っていくには、この最初と最後の高付加価値部分をいかに自分が担い、残りの製造過程を労働賃金が低い国に委託できるかが、重要になっているのです。

 

 

 

以上が前半部分の話でした。

後半では、AIやVR、3Dプリンターの登場によって、いよいよ最後のコスト、ヒトの移動のコストが低下しようとしているまさに今日の状況に迫ります!