【書評】イメージとは裏腹に進行する、アジアの高齢化問題~大泉啓一郎『老いてゆくアジア』
本の紹介
今回紹介するのは大泉啓一郎著の『老いてゆくアジア』(中公新書)です。
本書は2007年に書かれた本で、その時点でアジアに少子高齢化の波が訪れていることをアジア開発銀行や世界銀行のデータを使って説明します。
日本が少子高齢化問題が言われているのはもちろんですが、少子高齢化のイメージのない韓国や中国といった東アジアやタイなどの東南アジアに、出生率低下による高齢化が訪れ始めていることが判明します。
もはや高齢化は先進国特有の問題はない、ということが主張されます。
第2章では、かつて東アジア・東南アジアが劇的な経済成長を遂げた背景にあった人口ボーナスについて説明され、第3章では脱人口ボーナスによる経済へのインパクトについて説明されます。
人口ボーナスとは、簡単に言うと、これまでたくさんの子供が生まれていた国の出生率が低下すると、
①一国の中で生産年齢人口(しっかりと働ける20代から50代の人たち)の割合が増加する(高齢者はもともと少なく、子供世代も少なったため)→労働投入量が増加して経済成長につながる
②子供世代の人口が低下することで初等教育が普及する→生産性の向上につながる
というロジックで少子化が経済成長につながる、というものです。
詳しいメカニズムはこちらの記事を参考にしてください。
honkaraasuwotukuru.hatenablog.com
しかし、少し考えてみればわかりますが、この人口ボーナスはこれまでたくさん子供が生まれていた状態から少子化に変化した20年ほどしかその効果は享受できません(生産年齢人口が増えることはなくなるので)。
そうして人口ボーナスがおこる前にたくさん生まれていた世代がまもなく高齢者となることでアジアに高齢化が訪れていく、というのが本書に書かれていることでした。
そしてその来るべき高齢化の波に備えて誰が高齢化を養うのか、地域福祉の在り方などについて後半で検討しています。
書評・感想
「少子高齢化は先進国だけの問題ではない」
これ言葉が衝撃的な本でした。
僕自身、東南アジアなど何か国か訪れたことがあるのですが正直そのような印象は全く持っていませんでした。実際僕と同じような意見を持つ人もいるのではないでしょうか、「まだまだ若い人はたくさんいるのをこの目で見たぞ」と思う人が。
そこに落とし穴があるというか、この本を通じてわかったのですが、アジアの高齢化の裏に潜むもう一つの現象が若い人たちの都市への集中だったのです。実際東京を考えてみても若い人や働き盛りの人が多くて高齢化という印象はあまり持ちませんよね。
つまりアジアでも地方・農村地帯において高齢化が進んでいるのです。
しかもこの本が書かれたのは10年以上前、現在の事態はさらに深刻です。中国やタイでは若者がほとんどいないところもあると言われています。
このアジアにおける高齢化は二重の意味の問題をはらんでいると思います。
一つは高齢者ばかりになったアジアはこれまでと違う経済成長のあり方を模索する必要があること、もう一つは高齢者たちをいかに養うか、ということです。
本書でもそれへのアプローチがいくつか紹介されていましたが、もっとこのことに向き合う必要が日本も含めアジアの諸国にあるはずです。
個人的には高齢者の介護を外国人労働者の雇用先とする(日本では障壁が高そうですがうまくいく国もある気がします。実際台湾などでは介護サービスに従事する外国人労働者が多いという話もあります)、地方における流通システムの改善などができるといいと思います。とても難しい話だとは思いますが。
とにかく、アジアは発展が続いていて欧米にどんどん迫っている、とは限らず必ずしもアジアの未来は明るいだけではなく、その来るべき事態に向けて各々国が、そしてアジア全体でどう向き合っていくのかを考える必要があると感じた一冊でした。