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【書評】戦争を学ぶおもしろさ~加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』①

今回紹介するのは、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』新潮文庫)です。

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東京大学文学部の教授である加藤陽子教授が、高校生との日本の近現代史を理解してもらうための集中講義でのやり取りからうまれた一冊です。

そのため一般の人にもとても読みやすいものとなっています。

 

歴史を学ぶ意義を書いた序章、そして日清戦争日露戦争第一次世界大戦日中戦争第二次世界大戦までを描き出した500ぺージ近くある大変長い一冊なので、今回は前半として序章、日清戦争の1章、日露戦争の2章までを扱います。

 

要約

  •  戦争のおもしろさを学ぶ一般論をまぜつつ、日清戦争日露戦争、第一次で解体戦、日中戦争第二次世界大戦のいきさつ、要因、結果、影響を詳しく書いている
  • 過去の日本の戦争を学び、現代と比較することで見えてくるものがある
  • 日清戦争までの過程を、弱くなる中国と強くなる日本という二項対立で見ると本質が見えない。あくまで二国間の競争というものが本質
  • 日露戦争は、その後の昭和の戦争につながる契機である

 

日本の戦争の歴史を考える面白さ

実際に著者が栄光学園という神奈川の名門私立男子校を訪れておこなった講義における、高校生たちとのやり取りからこの本の序章は始まります。

 

いきなり「戦争の歴史とは~」、と始めてしまうと高校生だけでなく、普通の人でもまいってしまいかねませんが、今の人でもなじみの深い9.11テロ事件をかつての日中戦争と比較するという手法をとって、聞き手の興味を掻き立てていくのがさすがといったところ。

 

著者も言っているように、歴史の面白いところは、ある観点から比較したときに思いもよらなかったような共通点が浮かび上がっていくところにあると思います。

ただ暗記することが歴史の勉強というのは、大きな間違いです。

 

歴史を学ぶ本質的な意義は、過去の出来事という”特殊”な事の中から、現代に通用する”普遍”を見出すことであると言えるのかもしれません。

 

そして、個人的に「なるほど!」と思ったのは、ルソーを引用して戦争の敗戦国にもたらす作用とは何か、に対する答えでありました。

以下本文を引用しましょう。

戦争の最終的な目的というのは、相手国の土地を奪ったり(もちろんそれもありますが)、相手国の兵隊を自らの軍に編入したり(もちろんそれもありますが)、そういう次元のものではないのではないか。ルソーは頭の中でこうした一般論を進めます。相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序(これを広い意味で憲法と呼んでいるのです)、これに変容を迫るものこそが戦争だ、といったのです。

(p.51より)

 

つまり、戦争の目的は相手国の社会を成り立たせる最も基本的な考え・理念を変えることによって打撃を与え、自国に有利なものにしてしまおうとすること、であると言えるでしょう。

 

そう考えると、今のアメリカが行っている戦争(とくにイラク戦争)などに新たな視点を持ち込むことができそうです。

 

 

侵略戦争だけじゃない日中関係

日清戦争をはじめとして明治期から日本は東アジアに侵略していく、というのはよく言われることで、学校の歴史の勉強でも侵略する日本・強くなっていく日本と侵略される中国・弱くなっていく中国という構図が度々なされることもあります。

 

しかし、この本では、その見方だけだと大切な部分が見えてこないと言い、大切なのは日本と中国は競争関係にあって、戦争という形態は競争の中の一つでしかないと主張されるのでした。

 

1894年の日清戦争で日本が中国に勝ったからこそ中国は弱体化していったというイメージがつきがちですが、1880年代の中国は実は李鴻章という人の手腕によって軍備拡充などが進められていました。

実際山形有朋など当時の政府の人も中国を脅威と思っていた記述が残っています。

 

結果としては日清戦争では日本が勝ってしまうんですけどね。

 

ただ、そのあとフランス・ドイツ・ロシアによる三国干渉を受けて日本は戦争に勝ったのに中国へ遼東半島を返さなければならなくなりました。

こうした弱腰の政府に対して国民が不満を持ち、普通選挙運動が盛り上がることになった、と書かれており、おもしろい見解だなと思いました。

どの時代でも弱腰の政府に対しては不満が出てくるものですね。

 

 

日露戦争を学ぶ意義

日露戦争は約20万人の死者がでた戦争であると言われています。

坂の上の雲を読んだ、あるいはNHKのドラマを見たことがある人はイメージがわきやすいでしょう。

旅順攻略のために203高地を攻め続けて数えきれない日本兵の命が散っていきました。

 

こうして苦しい中でつかんだ勝利は、満州の獲得というかたちで目に見えるものとなりました。

今後、昭和になっておこる満州事変から日中戦争への流れの中で、日本では「20万人の犠牲の上に成り立つ満州の権益を守れ」という主張がなされたそうです。

 

そして日露戦争の勝利の後には韓国という大陸と陸続きの地を植民地とすることで、日本という島国が大陸と陸続きになったことになります。

 

つまり、日露戦争は後の昭和の戦争へのはじまりでもあるのです。

だから日露戦争を学ぶことはその後の戦争を理解する上ではかかせない、と本書は主張します。

全くその通りですね。

 

また、日本・ロシア両サイドの史料を様々な研究者たちが研究した結果、戦争に積極的だったのは日本よりはロシアであり、韓半島朝鮮半島のこと)をねらうロシアからの安全保障上の問題から日本は日露戦争にふみきったという説明ができそうです、と本書で書いていました。

帝国主義的要因というよりは、安全保障的な消極的な要因であったとするのは目からうろこでした。

 

そして戦争を戦い抜くうえで増税したことで、選挙権者が戦前の1.6倍となり、政治家の質も変わっていくことになると書かれています。

戦争をおこなうというのは大変なコストがかかることだから、選挙権であれ、経済の活性化であれ、なんらかの見返りがないと国民が納得してくれないのはどの時代も変わらないことなのかもしれませんね。

 

そろそろ長くなってきたので、続きは別の記事紹介することにしましょう。

ご拝読あありがとうございました。