【書評】偏見に対する正義、そして勇気を教えてくれる傑作文学~ハーパー・リー『アラバマ物語』(原題:To Kill a Mockingbird)
今回紹介するのは、ハーパー・リー『アラバマ物語』(原題:To Kill a Mockingbird)です。
この本は、1930年代のアメリカ南部のアラバマ州を舞台にした物語です。
その内容の素晴らしさから刊行されて60年近くたとうとしている今でも読みつがれる素晴らしいアメリカ文学です。
ちなみにぼくは英語の原書にチャレンジしてみたのでどこまで読み取れたか分かりませんが、悪しからず。
あらすじ(ネタバレはしません)
- 舞台となる1930年代のアラバマ州はアメリカ南部ということもあり、黒人への人種差別が根強かった
- 物語の語り手スカウトとその兄ジェムは、父で弁護士のアティカスが担当する裁判と関わっていくなかで成長していく
- その裁判は無罪の証拠がありながらも黒人の少年は有罪をつきつけられてしまう
- その不条理に対し、戦い続けるスカウトを通して差別や偏見、勇気、良心といったものまで描き出している
現実を知って子供は成長していくけれど
物語の語り手の主人公スカウトはお転婆少女。
この物語はその少女が成長する物語でもあります。
大人の社会の二面性、不条理なこと、ある一種の固定観念がまかり通ってしまうこと。
そういったものは僕たちが大人になっていくなかでも同じようなことを感じてきたことだったかと思います。
そうやって人は大人になっていく、でもおかしいことにはおかしいと思う感覚も同じようにどこかに置いていってしまうのでしょうか。
周りの人がこういうふうに言ってる、みんながやってるからそれが正しい。
それにNOという勇気は大変なことです。
しかし、例え自分の命が狙われようともそれを貫き通したのが、スカウトの父アティカスでした。
彼は何がなんでも黒人の少年への罪はないと主張し続けるのです。
こういった父の姿と現実の反応を見ながら、主人公のスカウトは戸惑いながらも、しかし現実を受け止めながら、何が大切なのかを理解し、成長していきます。
おかしいことにNOと言う勇気
この物語の顛末はここには書きません、それでは物語を読む楽しさがなくなってしまうので。
ただ、この物語を読んで感じたメッセージをここに少しまとめようかなと思います。
この物語は少女の成長物語にとどまらず、もっと深いメッセージを読者につきつけます。
それは、具体的なことであれば、人種差別を、人への偏見を持つことの過ち、もっと大きく抽象的なことであれば、間違っていることにNOと言う勇気を持つことの意味、だと思いました。
ちょうどこの本が書かれたのは1960年で、公民権運動など、黒人への人種差別反対運動がアメリカで盛り上がっているときでした。
まさにこの本はアメリカの、とくに人種差別がひどい南部の物語です。
この物語を通して、人種差別反対の意を示そうとしたのでしょう。
アメリカ南部は北部に比べて工業化が遅れて貧しい地域だったので、中心でない人たちに対して牙をむけた、というのは何もアメリカだけの話ではないでしょう。
honkaraasuwotukuru.hatenablog.com
この記事で書いたドイツ人とユダヤ人の関係もそうですし、日本だって同じことはありました。
しかし、人種差別にせよ何にせよ、おかしいことはおかしいのです。
人は生まれながらにして等しく生きる権利を持っている、このことに間違いなどないはずです。
おかしいことがおかしいと思われないことに対してNOと言うこと。
それは時にはうまくいかず、挫折しかねない結果を招くことはこの物語からも教えてくれています。
それでもおかしいことはおかしい。
そう言える人はアラバマ物語ではアティカスくらいでしたかもしれませんが、そうした人の行動が次の世代に受け継がれ、増えていくことで、この社会は少しずつでも変わっていくのかもしれません。
そんなことを感じさせてくれる、間違いなく傑作といえる文学でした。
もう一度読み直したい。