本から明日をつくる

《経済学の大学院を修了しベンチャー企業で働く管理人》が、“ビジネス”と”人生”を深くする教養をお届けします。【様々なジャンルの本から学べる明日に活かせる知識・視点】と【日本と世界のあまり知られていない世界の魅力】を発信しています。

【書評】小さな声に耳を傾けてこそ見える世界~中村安希『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』

今回紹介するのは、中村安希『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』集英社)です。

 

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この本は著者が684日かけてバックパッカーで世界一周したノンフィクションです。

第七回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品でもあります。

 

こんな観光地にいきました~!とかじゃなく、著者が旅先で出会った人々とのやり取を中心として構成されていて、素直な感じたことを書きつらねた一冊です。

 

 

要約

  • モンゴル、中国に始まり、東南アジア、インド、中央アジア、中東を巡り、アフリカをまわった旅の記録
  • 旅先で出会う現地の住人や旅行者とのやりとりの話が中心
  • 大切なことは「小さな声に耳を傾けること」であり、目の前の人にちょっとした思いやりをもつこと

 

 

小さな声にそっと耳を傾けること

「大きな声で話すばかりがコミュニケーションではないんだね。小さな声にそっと耳を傾けること。むしろ、それこそがコミュニケーションの核ではないかと、僕は考えている」

(『インパラの朝』p13より)

筆者がカリフォルニアの大学に行っていたときの先生のこの台詞から始まるこの本ですが、「小さな声に耳を傾けること」が旅の動機でもあり、全体を通じたテーマでもあると感じました。

 

この本は上でも既述したように、旅先で出会う人々とのやりとりや会話、それに伴う出来事が中心となっています。

そのためか、章が変わると、「前の章とのつながりはどうなっているの?」「どうやってそこまで行ったの?」「どれくらい時間がたったの?」と感じることも多々あります。

 

でもそれでよいのでしょう。

筆者が伝えたいことは、大切だと思っていることは、「小さな声に耳を傾けること」であり、世界にはこんな人がいて、こんなことを考えて暮らしているんだ、ということだろうから。

 

最近、インターネットやSNSの発達などで世界中の情報を、ーそれこそアフリカまでー、手に入れることができます。

だからぼくたちはあたかも知った風に勘違いしてしまうんですよね。

そこに住んでいる人たちのことなんて本当は何もわかってもいないのに。

 

ぼくもよく知った風で発言したりしてしまうので反省です。

ネットが発達して世界中のことを知れるようになった今だからこそ、小さな声に耳を傾けることは大切になってくるのかもしれないですね。

 

 

たすけるってなんだろう

筆者は約2年にわたる長旅をして世界中を見て回りました。

そのなかで数えきれない人たちと出会い、その小さな声に耳を傾けてきました。

 

耳を傾けるって言っても、ただただ貧しいからたすけてあげるね、とかじゃなく、それは違うと思ったことはNOと言うし、いやだと感じたら正直に嫌だと言います。

そんな正直さもこの著者の魅力の一つかもしれません。

 

そんな著者がユーラシア大陸を経てアフリカで感じたこと、学んだこと。

一番この本で伝えたいのはその部分ではないだろうかと思います。

それは、「豊かさの意味」でしょう。

 

筆者はアフリカで度々、アフリカの貧困撲滅をうたい支援を目的としたNGO団体の人々を見かけることになります。

筆者も当初はアフリカの貧困の惨状を確認して世界に発信しようと考えていました。

 

しかし、筆者は気づくことになるのです。

そういった「世界の平和と安定」を掲げた先進国の支援というのは、自国の権威を強調するため、道徳心をアピールするための延長線上にあるものにしかすぎないと。

 

そして同時に、アフリカの人たちは思ったほど不幸な顔をしてなくて、それぞれに「思いやる気持ち」を持っている、ということに気づかされたのでした。

筆者は「アフリカは教える場所ではなくて、教えてくれる場所だった。助けてあげる対象でなく、助けてくれる人々だった。アフリカは貧しい大陸ではなく、圧倒的な豊かさを秘めた、愛されるべき大陸だった。」と述べています。

 

助け合うということは予算額の大きさでもなければ、慈悲の精神の量でもなければ、見せびらかすものでもない。

それぞれに「思いやる気持ち」を秘めていて、目の前で困っている人にそっと手を差し伸べること、それが助け合うことだ、と主張します。

 

このことは本当に心に刻まなければいけないことだと感じました。

 

この世界には本当に心から世界を変えなきゃとおもって行動しようと思っている人はたくさんいるます。

そういった志がある人たちの行動はもっと正当な評価を受ける世の中になるべきだし、そういう人たちにこそ正当な対価が払われるべきだと思います。  

だから何も困っている人を助けようとちゃんと考えている人の取り組みは、ぼくは積極的に賛同しています。

 

しかし、国やメディアが宣伝のために、自己アピールのためにそういう人たちの良心を利用して「支援活動」を行っている一面もあることを忘れてはいけません。

 

そして、心からなんとかしようと思うならば、謙虚に、そのうえで目の前の小さな声に耳を傾けることを忘れずに、本当に目の前の人のためになることを、やっていく必要があるのだと、この本から教わりました。

 

旅行記にして、ただの旅行記にあらず。

そんな一冊とであることができました。