本から明日をつくる

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【書評】金融の歴史をしっかり学びたいならぜひこの一冊を~川上孝夫・矢後和彦編『国際金融史』~

今回紹介するのは、川上孝夫・矢後和彦編『国際金融史』(有斐閣)です。

 

 

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19世紀後半から成立した国際金融システムはいかなる変遷をたどって今に至るのか。

その歴史を小説的なものでなく、ちゃんとした勉強として知りたいというのであれば、この本はテキストとしておすすめの一冊です。

ただちゃんとした学術書である以上結構難しめの部類には入るので、読むのが大変と思うこともあるかもしれません。

 

 

要約

  • 第一次世界大戦前は金本位制に基づくイギリスを核とした多角貿易決済システムだった
  • 第一次世界大戦後、ロンドンの国際金融市場の地位は後退し、かわりにニューヨークが台頭していく
  • 1929年の世界恐慌により金本位制は崩壊し、1930年代は国同士の協調は失敗して各国は国内の均衡優先政策にはしることに
  • 第二次世界大戦後、1930年代の反省をいかし、ブレトンウッズ体制のもとで国際協力・介入主義・設計主義を基盤に国際金融システムが構築される
  • 金ドル本位制の戦後国際金融システムは、1970年代に変動相場制へと移行していき、現代に至る

 

 

金融システムの変遷の歴史をとても細かく学べる

もともとこの本は大学院生の発展学習に貢献するようにつくられたレベルなので内容がとても細かいです。

上で要約した1つのポイントにつき30ページくらいの分量はざらにあります(笑)

 

読むのは大変かもしれませんが、これ一冊で大抵の金融の歴史知識は手に入ります。

全部理解しようとしなくても、他の本を読んだりするときに手元に置いておいて調べるために使う、というような使い方が良いかもしれません。

 

 

今の為替制度はほんの50年足らずしか続いていない

当たり前のようにニュースを見れば「今日の為替相場は~」といった話をしていますが、こうした為替相場といったものが今の形になったのも1970年代の出来事なんですよね。

 

この本を読んで20世紀になる前からの変遷を学ぶと、今の為替制度は歴史の中じゃほんの一部にしかすぎないことに気づかされます。

今の制度が続くと思ってしまいがちですが、長い歴史のなかでその時その時の世界に合わせて制度は変わってきているので、これからまた大きく変わっていくことだってありうるかもしれません。

 

国際情勢のバランスの変化やブロックチェーンの登場によって、変わっていくことも大いにありうるでしょう。

 

 

たくさんの失敗と試みがあって今に至っている

こうした歴史を学ぶ意義の一つは、過去にあった出来事から、なぜそれは失敗し、それをどのように乗り越えていったかを学び、そうした失敗に対する態度を現在の出来事に投影する、といったことがあると思います。

 

例えばこの本で言えば、1930年代は世界恐慌によってイギリスやフランス、ドイツ、日本など各国は自国の通貨や産業を守るために内向きに走ることになります。

そうして自国の通貨経済圏を作り出しますが、そのときに植民地の資源があるなしなどが第二次世界大戦を誘発する一つの要因にもなってしまいました。

このときに国際金融協調の試みはことごとく失敗してしまったという苦い経験が戦後に持ち越されたのです。

 

また、第二次世界大戦勃発の要因としては、大一次世界大戦後のヴェルサイユ体制でドイツに返済不可能なほどの多額の賠償金を負わせたということもあるでしょう。

 

こうした国際間の金融面における反省から第二次世界大戦後の、国際協調・介入主義・設計主義(ざっくり言うならば市場の需給調整に政府が介入できる制度をつくるという経済学者ハイエクの造語)を基調としたブレトンウッズ体制ができあがるのです。

 

多くの失敗と試みがあったということを、歴史から学ぶことができ、これからの未来を見通す一つの材料となっていくわけです。

 

他にも、この本には書かれていないけれどリーマン・ショックなどからも多くのことが学ぶことができるでしょう。

 

歴史を学ぶ意味を理解して、金融面から過去・現在・未来を考えるうえで、このテキストは大いに役立つ一冊となるはずです。