【書評】X JAPAN ボーカルToshl、苦悩の洗脳生活を語る~Toshl『洗脳 地獄の12年からの生還』
今回紹介するのは、Toshl『洗脳 地獄の12年からの生還』(講談社)です。
著者であるToshl(トシ)は紹介するまでもない日本を代表するロックバンド、X JAPAN のボーカルです。
彼はホームオブハートという自己啓発セミナーを主催する団体に12年に及ぶ洗脳をうけていました。
その洗脳にかかるいきさつ、洗脳中の信じられない虐待と金銭奪取の数々、そして洗脳からの脱出についてあまりにもリアルにこの本にはつづられています。
あまりに現実離れした現実に、読んでいて心が痛まずにいられません。
内容
- 洗脳団体に出会う頃、Toshlは自分の利権を利用して金に目が眩んでしまった家族とトラブルを抱え、精神的に追い詰められていた
- そのとき出会った後の妻、守谷香なら唯一信じられる人だと思ったが、その妻にすすめられたのがMASAYAこと倉淵透が自己啓発セミナーをこなうカルト的な団体だった
- 信じきってきていた妻のすすめとMASAYAのカリスマ性、そして家族とのごたごたから徐々にその団体に陶酔してしまっていく
- 暴力をふるわれ続けても、金を吸い上げられても、自分はエゴの塊でMASAYAは素晴らしいという洗脳は深まる
- やがてMASAYAの金への執着、X JAPANドラムのYOSHIKIとの再開、そして奇跡的な人徳者との出会いを通して洗脳から脱却していく。
なぜ洗脳にかかってしまったのか
なぜ国民的ロックバンドのボーカルにまでなってToshlは洗脳されてしまったのでしょうか。
この本を読んだ限り、家族に裏切られて自分がスターになっていったことが不幸をまねいてしまったのではいか、何を信じればよいのかわからない、という思いで精神が追い詰められていたことにあるのでしょう。
その弱みにつけこんだのがMASAYAであり、元妻守谷香であったわけです。
Toshlを自分たちの団体の広告塔として利用して、金を巻き上げ作らせていったわけです。
そしてToshlを洗脳し、暴力を振るう(信じられないことに、団体の信者たちから毎日何時間も蹴る、殴る、罵倒するといった暴力をうけていたそうです)うえで、亡くなってしまったX JAPANのギターHIDEすらも侮辱するということをしていたそうで、読んでいて腸が煮えくり返りそうになりました(僕はX JAPANが大好きなので)。
こんな団体があるなんて、そして12年間もこうした尋常じゃない苦痛を受け続けたToshlを思うと、ページをめくるのがつらくなっていきました。
いつ自分にふりかかることか分からない
この本を読んで、ただToshlはなんて悲痛な人生を歩んできたんだ、という感想で終わらせていけないと思います。
これは誰にでもふりかかりうる話なのです。
きっと自分なら大丈夫、そう思っているとよくない。
というか、そう思えているうちはまだよいのかもしれないけれど、こういう洗脳にかかってしいまうのは、このときのToshlのように不幸などが重なって、自分の精神が弱ってるときだからだと思うからです
あとがきでホームオブハートと闘ってきた弁護士紀藤さんが書いているように、「自分でものごとも是々非々を判断する習慣」をつけていく必要があるのでしょう。
清廉に生きる
そして、Toshlが洗脳から抜け出すときに手を差しのべたご老人が最後に言った言葉が心に残りました。
Toshlが「幸せに生きていくにはどうすればよいか」とその人に尋ねたといきにその人が言った言葉。
「それは、清廉に生きることじゃな・・・」
今、僕たちが生きている世界は色々なことであふれている。
そしてそのほとんどは目先の利益だとか、一時の欲望を満たすためのものばかり。
そういったものに惑わされるのではなく、本質を見抜く力を鍛え、慎(つつ)ましく生きていくことが幸せのための秘訣なのかもしれません。
簡単な目先の行動をしているだけでは、幸せは見えてこないのかもしれないですね。
くれぐれも、これをすれば救われる、幸せになれる、といった誘惑にはそそのかされないようにしていきましょう。